公表した主たる論文とその概要
1)Fukusumi M, et al. Invasive pneumococcal disease among adults in Japan, April 2013 to March 2015: Disease characteristics and serotype distribution. BMC Infect Dis 2017 Jan 3;17(1):2.
2013〜2014年度に研究登録した281例の原因血清型の決定した成人IPD症例について解析した。年齢中央値は70歳、72%が基礎疾患、38%が免疫不全があった。致命率は20%であった。最も頻度の高い血清型は3 (17%), 19A(13%), 22F(10%)であった。原因血清型の割合はPCV7 typeは12%, PCV13 typeは46%, PPSV23 typeは66%であった。成人のIPDでは大半の症例で免疫不全を含む基礎疾患を合併していた。成人IPDの原因血清型分布では、小児の定期接種ワクチンであるPCV7 typeの割合の低下が認められた。
2)Shimbashi R,et al. Epidemiological and clinical features of invasive pneumococcal disease
caused by serotype 12F in adults, Japan. PLoS One 2019 Feb 21;14(2):e0212418.
2013〜2017年度に1,277例の原因血清型の決定した成人IPD症例を研究登録した。2015年に出現した血清型12FによるIPD症例の臨床的特徴について検討した。12F IPD症例(n=120)は非12F IPD症例(n=1157)と比較して、65歳以上の割合(55% vs 70%), 併存症の割合(65% vs 77%),免疫不全の割合(19% vs 30%)が有意に低かった(全てP<0.05)。致命率には有意差が無かった。 12F IPDの死亡例(n=17)は非12F IPDの死亡例(n=205)と比較して、65歳以上の割合(53% vs 69%), 菌血症を伴う肺炎(35% vs 69%)が有意に低かった(全てP<0.05)。12F IPD症例と低侵襲性あるいは中程度の侵襲性ポテンシャルを有する血清型のIPD 症例間ではその臨床像に違いが認められた。また、12F IPDの死亡例では、非12F IPD症例に比較して、より年齢が若く、巣症状を伴わない菌血症の割合がより多かった。これらの所見は高侵襲性の12F血清型で起こるIPDの病態に関する新たな知見を提供している。
3)Shimbashi R, et al. Effectiveness of 23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine against invasive pneumococcal disease in adults, Japan 2013-2017. Emerg Infect Dis. 26(19): 2378-86,2020.
小児のPCVプログラムのインパクトを明らかにする目的で、Indirect cohort法によって成人IPDに対するPPSV23のワクチン効果について解析した。2013年4月から2017年12月までの20歳以上のIPD患者の臨床疫学的情報を収集した。PPSV23血清型に対するPPSV23の調整したワクチン効果は42.2%であった(65歳以上では39.2%)。研究期間中のPCV13血清型の減少(45%から31%)にかかわらず、PPSV23のワクチン効果の変化(47.1%から39.3%)と限定的であり、高齢者での変化(39.9%から39.4%)はわずかであった。小児のPCVプログラムのPPSV23の成人IPDに対する効果に対するインパクトは限定的であった。
4)Chang B,et al. Distribution and variation of serotypes and pneumococcal surface protein A clades of Streptococcus pneumoniae strains isolated from adult patients with invasive pneumococcal disease in Japan. Front Cell Infect Microbiol. (in press).
2014-2019年に成人IPD患者から分離された1,939株を対象として、新規ワクチン抗原の候補であるPneumococcal surface protein A(PspA)のcladeの解析を行った。1,932株(99.6%)でPspA cladeが決定され、PspA遺伝子欠損の7株(0.4%)を認めた。PspA clade の検出頻度はclade 1 (786株,40.5%), clade 2 (291株,15.0%), clade 3(443株,22.8%), clade 4 (369株, 19.0%), clade 5 (33株, 1.7%),clade 6 (6株, 0.3%)、新規PspA clade(4株, 0.2%)であった。Clade 1株の増加とclade 2株の減少傾向が認められ、PspA cladeは血清型およびsequence-type に部分的に依存していた。PCV13およびPPSV23に含まれる主要な菌株はPspA clade 1かclade 3に属していたのに対し、非ワクチン型の菌株はより広域なcladeに分布した。
成人IPD 由来肺炎球菌の血清型分布(n=2,178; 2014〜2020年)

成人IPD症例の血清型サーベイランスの評価
- 血清型3,19Aの経年的な割合は下げ止まり
- PCV13, PPSV23のカバー率は約30%の差を保ちつつ、それぞれが緩徐に減少
- 15A, 23A,35Bの割合の増加傾向
成人IPD の罹患率(2017〜2019年)
成人IPDの10万人あたりの報告数

- 2017〜2019年に10万人あたりの報告数が安定してきた。
主要5血清型によるIPD罹患率(2017〜19年)

- 2017年から2019年にかけて、血清型3の罹患率は緩やかに低下した。一方、12Fの罹患率は急速に低下した。
成人髄膜炎由来肺炎球菌のPCG感受性(n=304; 2014〜2020年)

IPD患者における基礎疾患と15〜64歳のIPD患者のワクチン接種歴

- 2013〜2018年度の期間に10道県で実施した成人IPDサーベイランスにおいて1,702症例を登録し、その基礎疾患について15歳以上の全症例、15〜64歳と65歳以上に分けて表に示した。
- 15歳以上の全年齢の基礎疾患としては糖尿病が最も多く、次に固形癌(治療中)、ステロイド投与、慢性心疾患、自己免疫性疾患等の順であった。65歳以上では基礎疾患を認める症例は72.2%だったが、15〜64歳では57.7%と少ない結果であった。
- 15〜64歳の主要な基礎疾患としては、糖尿病、自己免疫性疾患、ステロイド投与、慢性肝疾患、固形癌(治療中)と続き、免疫抑制剤投与、脾摘後、先天性無脾/脾低形成、造血幹細胞移植後等が認められた。特に、65歳以上と比べて、15〜64歳において頻度が高い基礎疾患は自己免疫性疾患、慢性肝疾患、脾摘後、造血幹細胞移植後等であった。
- 15〜64歳のIPD症例(n=534)のIPD発症5年以内のワクチン接種率について調査した。この結果、同年代のPPSV23接種例は14人(2.3%)であり、PCV13接種例は1人も確認されなかった。一方、65歳以上のIPD症例(n=1,168)のうちPPSV23接種歴ありは150人(12.8%)、PCV13の接種歴ありは2人(0.2%)、PCV13・PPSV23の両方接種ありは4人(0.5%)だった。15〜64歳のIPD罹患患者における肺炎球菌ワクチンの接種割合は極めて低率であった。
まとめ
- 2014年〜2020年までに2,178例を登録し、各年の主要な血清型の割合の推移を評価した。
- 血清型3,19Aの経年的な割合は下げ止まる傾向であった。
- PCV13, PPSV23のカバー率は約30%の差を保ちつつ、それぞれが緩徐に減少した。15A, 23A,35Bの割合が増加傾向を示した。
- 2017年〜2019年の間に血清型3の罹患率は緩徐に低下し、血清型12Fの罹患率は急速に低下した。
- 髄膜炎由来株のペニシリン耐性の割合は35.2%であった。
- 15歳以上の全年齢の基礎疾患としては糖尿病が最も多く、次に固形癌(治療中)、ステロイド投与、慢性心疾患、自己免疫性疾患等の順であった。また、15〜64歳において頻度が高い基礎疾患は自己免疫性疾患、慢性肝疾患、脾摘後、造血幹細胞移植後等であった。