代表者挨拶

小児疫学

小児において髄膜炎の原因となる3つの代表的細菌は、インフルエンザ菌(特にb型)、肺炎球菌、髄膜炎菌です。これらの細菌の共通点として、いずれも莢膜に包まれていること、莢膜多糖体に対する抗体の存在が感染予防に重要であること、多糖体抗原は乳幼児において免疫原性が低いこと、が挙げられます。抗菌薬や支持療法の進歩により細菌性髄膜炎の予後は改善してきましたが、発症後急速に重篤な経過を辿ることがあるため、ワクチンによる予防が切望されていました。乳幼児においても感染防御抗体を誘導可能なキャリア蛋白結合型莢膜多糖体ワクチンが開発され、海外において優れた疾患予防効果を示してきました。日本ではようやく2007年1月にHibワクチン、2009年10月に7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)が認可され、2013年4月から定期接種化されました。われわれの研究班では、2007年より、1道9県において小児侵襲性細菌感染症の人口ベースアクティブサーベイランスを実施し、ワクチン導入前後での罹患率変化、分離菌血清型の変化および抗菌薬感受性などを解析しています。本ホームページでは、研究班で得られた侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)に関する我が国における最新の疫学データを提供いたします。本研究成果が今後のIPDに対する医療の更なる進歩の一助となれば幸いです。

日本医療研究開発機構(AMED)新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業
研究開発課題名「既存ワクチンの有用性検証および今後の予防接種施策の向上に資する基礎的・臨床的・疫学的研究」:2022-2024年度(予定)
研究開発代表者 菅 秀(独立行政法人国立病院機構三重病院 小児科)

成人疫学

肺炎球菌は中耳炎や肺炎等の原因となりますが、小児や高齢者、基礎疾患のある方に重症の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD:invasive pneumococcal disease)を引き起こすことがあります。一方で肺炎球菌に対するワクチンが利用可能であり、2014年10月から高齢者を対象とした肺炎球菌ワクチンの定期接種が実施されています。

この肺炎球菌ワクチンは肺炎球菌の持つ莢膜(糖鎖が主成分)をワクチン抗原として使用していますが、肺炎球菌には100を超える異なった莢膜が存在しており全ての種類の莢膜をワクチンに含めることが難しい現状があります。

このため、肺炎球菌ワクチンが成人IPD患者の原因菌の血清型をどの程度カバーしているかを調べるために、原因菌の血清型分布に関するサーベイランスを行ってきました。この調査から小児13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)導入による間接効果が明らかになりました。また、成人IPDサーベイランスにおいて5年以内に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPSV23)を接種した患者由来の原因菌の血清型を調べることで、IPDに対する予防効果の推定値を示しました。

また、最近の動向として、2022年9月に成人を対象としたPCV15(15価肺炎球菌結合型ワクチン)が国内で販売承認され、2023年上半期には市場に登場する予定となっています。また、日本呼吸器学会呼吸器ワクチン検討WG委員会/日本感染症学会ワクチン委員会/日本ワクチン学会による3学会合同委員会は成人のハイリスク者に対するPCV(PCV13もしくはPCV15)/PPSV23の連続接種を推奨しています。

このような状況をよりわかりやすく、また研究成果やIPDの罹患率の推移、IPD原因菌のワクチンカバー率、薬剤感受性の最新データをいち早く臨床や公衆衛生の現場で生かして頂くことを目的とし、本HPを設立しております。これらのIPD関連の疫学情報が実地臨床医家の診療の一助となれば幸いです。

厚生労働科学研究費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業
「成人の侵襲性細菌感染症サーベイランスの強化のための研究」:2022-2024年度(予定)
研究代表者 明田幸宏(国立感染症研究所)